「金さえ積めば、ドラゴンだろうと始末するそうだな?」村長が目の前の男に、尋ねる。
「報酬は高いがな」男がそう、興味無さ気に答える。
「大した仕事ではない。十五の子供一人を殺して欲しいだけだ」
「聞いてないのか?」それを聞いた男が、眉を顰める。
「何をだ?」
「俺は人殺しの仕事は受けない」そう言うと、男は部屋を出ようとする。
「待ってくれ。なら、大丈夫だ。奴は、人間じゃない。妖精だ」
 その村長の言葉に、男は立ち止まる。そして、しばらくの沈黙の後、男はゆっくりと振り向いた。
「取り換え子……、か。親は何と言ってる?」
「自分の子供が妖精に取り換えられた事に気づいてから、精神的におかしくなり始めてたらしくてね。今まで、周りに気づかれないようにしていたんだが、とうとう……」
「村の人間で、知っているのは?」
「わしだけだ。で、引き受けてくれるのか?」
「その子はどこに?」
「奴の家は、ここの向かい。そこにいるはずだ」
「そうか」男はそう答えると、部屋を出ていった。

「こっちに来ないで。ひ、人殺し……」
 少年が後退りする。背後は、壁。それ以上、逃げる事は出来ない。
「人殺し? おまえは人なのか? 妖精ではないのか?」
「そ、そんな事……、言ったって……」
「どうなんだ? おまえは人間なのか? 妖精なのか? 人間として生きるのか? それとも、妖精として生きるのか?」男がそう問い詰めながら、少年に近づく。
「妖精として生きるのなら、この村を出て、人里離れた森にでも行け。だが、人間として生きると言うのなら……」男はそう言うと、腰の剣に手を伸ばした。
 少年はそれを見ると、男の目と腰の剣を交互に見た。そして、震えながらも、意を決したように、口を開いた。
「僕は……、妖精なんかじゃない。人間だよ」
「そうか。ならば……」男はそう言うと、ゆっくりと、腰の剣を引き抜いた。

「なぜだ? 耳の尖っている部分を斬った所で、いずれ元に戻るのではないのか?」仕事の結果報告を聞いた村長は、少々不満げにそう聞いた。
「傷口を火で焼いた。少々、見栄えは悪くなるが、元に戻る事は無い」
「だが、奴が本当に人間になった訳ではあるまい?」村長は納得しない。
「奴は人間として、生きる事を選んだ。それで充分ではないのか?」
「確かに、奴の親は正気を取り戻した。そして、本当の子供が帰ってきたと思い込んでる」そう、村長が肩を竦ませる。
「それに、俺は人間を殺さないと言ったはずだ」
「奇麗事だな」そう言うと、村長は男に金貨の入った袋を投げつけた。
「ああ。だが、これは俺が、決めた事だ」
(そう。人間として生きる事を選んだ時に、な)
 袋を手に取ると、男は黙って部屋を出ていった。